2008年05月22日
水が危ない!?②・・・・・・水資源の枯渇~地下水利用の現状
先日、「水が危ない!?・・・・・・ミネラルウォーターが売れるのはなんでだろう?」で、市場化された飲料水が取り上げられていましたが、近年では世界的な「水資源の枯渇」が危惧され、飲料水に限らない水資源を巡る市場もクローズアップ
されてきているようです。
「日本の水資源と水利用の現状 1.列島の水資源」によると、我々は世界中で地下水を含めても全地球の0.8%程度の淡水しか利用できないようですが、水不足に汲々としていない我々日本人にはこの「水資源の枯渇」自体なかなかピンときません。
でも、水資源の量でみると日本も世界的には決して豊かな訳ではないのです。
・世界における年間一人当りの水資源量
日本水産株式会社_ニッスイアカデミー_役立つデータクリッピングから引用
世界的な「水資源の枯渇」
上の図中の各国に差があるように、水資源は地域差や季節変動を伴う降雨量、河川の経路や流量、偏在する地下帯水層の容量等から、他の資源同様偏在する資源です。しかし、一方で海に流出した水も雨として循環し、再生する資源でもあります。
また、地球規模で見れば人間が毎年取水している量は最大限利用可能な水資源賦存量の10%程度、耕地からの蒸発散量は全陸地からの蒸発散量の30%程度と、利用可能な淡水自体が枯渇しているわけではありません。
ですから、現状「水資源の枯渇」は、本来偏在する水資源賦存量を超えた取水という地域的な問題ではあっても、世界的な問題にはならないはずです。
にも拘らず「水資源の枯渇」が地域を越えて浮かび上がっている要因の一つが、世界的な食糧生産。食糧生産地の偏在・食料の流通が水資源の偏在・循環とズレを生じ、生産地の水資源不足が人口が増加する一方の世界的な食料生産の危機に繋がるという問題です。
世界の水資源使用状況
・世界の水資源の使用状況(2001年)
日本水産株式会社_ニッスイアカデミー_役立つデータクリッピングから引用
世界的には農業・工業で水の9割が使われ、そのうちの7割を農業が占めています。
この50年で人口は2倍になり、取水量は2.6倍に跳ね上がりました。単純に考えると農地が拡大しそうなものですが、新規開拓の困難さなどもあり、増大した人口を養う食糧生産は灌漑等による生産効率の向上という形で賄われ、耕地面積自体は1割程度しか増加していません。
天水農業は勿論、灌漑を行なうにしても地域に毎年循環する水を利用している限りは、変動はあれ現在言われるような「枯渇」は起きません。
非常に緩やかな循環で再生する帯水層の「地下水」の利用が、毎年その地域から流出する水以上の水利用を可能し、同時にその水瓶の涵養量(溜まる量)と取水量の関係が「枯渇」の問題を浮上させているのです。
この地下水の現状はどうなっているのでしょうか?
地下水の現状
・世界の水量と滞留時間
国土交通省 今後の地下水利用のあり方に関する懇談会から引用
上図のように地下水は涵養量を超えて用いれば、世代を超えた年月でしか復元しない有限といってもいい水資源で、涵養量が著しく少ない地下水は化石水とも言われます。
図中の中東の国々は地下水への依存度が高く、食料生産上既に水資源は危機的な状況にあり、輸入が欠かせない状態です。一方、同じ図中に出てくるアメリカのオガララ帯水層と中国の華北平原は世界的な規模の食糧生産に関る生産値に関係する代表的な帯水層です。
・オガララ帯水層
農林水産省 世界の水資源とわが国の農業用水についてから引用
アメリカは世界の穀物の16%を生産する最大の輸出国で、オガララ帯水層が関連する8州でアメリカの15%の小麦を生産しています。現在オガララ帯水層への年間の涵養水量6~8Km3に対し、 年間の揚水量が22.2Km3 と3倍の量を使用しており、同帯水層を水源とする農地には、近年水位が30mも低下した場所の報告もあり、いずれ枯渇することが危惧されています。
・華北平原
千葉大学環境リモートセンシング研究センター資料から引用
中国では、元々降雨量が多かった南部の農地が南部の工業化と共に北上し、半乾燥地帯の華北平原で多くの穀物を生産しています。帯水層からの取水量は先の収支表では涵養量以下ですが、水位の低下は毎年報告され、80年代には毎年1.5m程度の低下だったペースも近年毎年3m程度まで加速し、かなりの深度から取水しなければ水量が確保できない状態にあります。また、塩類集積の問題や水位低下からの取水コスト増による生産の行き詰まりが、取水量の増大と共に問題化している状況です。
こうして見てみると、地下水を水源とする農業に依拠する限り、いずれ水資源を使い果たして食糧自給が不可能な国が増えたり、現在の利用状況を維持し、或いは今後の人口増に対応して取水量を増やすことで、世界の大規模な食糧生産地が水資源の枯渇の影響を受ける事は間違い無いようです。
しかし、ここで改めて気になるのはそれが本当に文字通りの「水資源の枯渇」の危機なのかどうかです。
アメリカでは現在オガララ帯水層に関る8州の合計で約520万ha程度がその地下水で灌漑をしているとされていますが、それは全米の栽培面積の約5%に過ぎず、全米で見れば生産調整なども行われているようです。また、全世界的には灌漑面積は全体の20数%でもあり、全世界的に食糧生産力向上の余力を失ったのだとも言い切れません。
既に水資源の不足から十分な食糧生産が不可能な国も存在し、使用状況から今後も発生するとは思いますが、現在の食糧生産や市場のあり方に拠らずに考えれば、「水資源の枯渇」は絶対絶命といったものではなく、世界的な運用の仕方で解決できる可能性がまだあるように見えます。
食糧生産自体、水資源の量の他、水質汚染、塩類集積等の農地の劣化・砂漠化等の問題もあり、安穏としていられない状況ではあります。しかし、一方で「水資源の枯渇」~「食糧危機」は市場拡大を絶対化した価値観や、既存の権益保持を前提とした食糧生産・流通計画、水資源開発の方向性によって引き起こされている人為的な側面が非常に強いとも感じます。
今後、現在の水資源利用状況を固定的に捉えて危機が叫ばれると、例えば食料とともにその生産に使う水資源を輸入に頼る一方、地域的には水資源で困窮していない日本などは国際的な批判にさらされる可能性すらあります。
しかし、「水資源の枯渇」がCO2排出権の様に実態と乖離した、だまし討ちのような権益を産む危機ネタに留まることが無い様、絶対量は足りながら偏在する水資源利用の実態把握や、その可能性のある配分・利用方法の可能性を事実に即して冷静に見出していくことが必要です。そしてその過程ではこれまでのような消費を是とする市場社会からの脱却は避けられないと思います。
水問題の位相が整理されたお勧め投稿
「水が枯渇する!」って、どういうこと?
参考
地球表層の水循環・水収支と世界の淡水資源の現状 および今世紀の展望:沖大幹氏・鼎信次郎氏
世界の水資源と農水管理について:石井優氏
水資源と世界の食料生産:川島博之氏
- by basha
- at 07:33


comments
水問題って、人口と食糧問題、市場の問題と、複雑ですね。
地下水を使った農業は限界があることは良く分かりました。
では、天水農業だけで一体どれだけの人口を賄えるのでしょうか?このまま人口が増え続けると、いくら水の循環、再配分を世界規模で調整したとしても、限界があるように思いますがどうでしょう?
う~ん、いまいちよく解からないですね???
まず、地下水による農業は、汲み上げすぎで水がなくなりそう。でも、
>また、全世界的には灌漑面積は全体の20数%でもあり、全世界的に食糧生産力向上の余力を失ったのだとも言い切れません。
からすると、それは農業全体の20%でしかない?(こういう意味ですか?)だから、まだ大丈夫ということですかね?
ところで、農業用水の利用量は増えています。そして、それ以上に、中国などの開発途上の国では、工業用水も都市用水も増えていってます。そうすると、農業だけ取り出して水が足りる、足りないという検討では、事実は見えてこないと思います。
直感的にも、中国などの工業化・都市化による水の使用量増加率は、農業のそれより大きいと思うのですが?それが理由で、中国の農地は北部に追いやられたのでは?
もしそうであれば、残り80%の農地は、工業用の取水源(河川や湖沼)と重なるので、水不足になる可能性があるのでは?
このあたりの、もう少しデータ比較が欲しいですね。
次に、
>地球規模で見れば人間が毎年取水している量は最大限利用可能な水資源賦存量の10%程度、耕地からの蒸発散量は全陸地からの蒸発散量の30%程度と、利用可能な淡水自体が枯渇しているわけではありません。
このときの、『最大限利用可能な水資源賦存量』とはどんな数値ですか?たとえは、河川や湖沼の水量の合計だとしたら、それ自体なんの意味も持たない数値になります。
それは、これらを全て(7割でも)使うと、生態系も、気候も変わるほどの大きな環境変化(破壊)になります。たくさん川に水が流れていても、人間が利用して問題が無いのは、ほんの一部に過ぎないといと思います。
これらのことを、もう少し考えていきたいですね。
simasanさん、カルビ☆さん、コメントありがとうございます!
水が枯渇する!ということで色々調べ始めたものの、実際のところまだ利用可能な水の限界や実態が掴めてません。
食料生産の問題を考えると、土地の荒廃や水質汚染の影響の問題などもあり、水の量だけ見ていても不十分なようです。
要素を増やしてあれこれ情報をつまみ食いしていくばかりだとドツボにはまりそうなので、まずはカルビ☆さんがあげてくださってる点などを足がかりに、改めて探索の方向と要素とを整理して、大きな枠組から状況をはっきりさせながら継続して調べてみます。
読ませて頂いて、わからなくなってしまったところがあります。
①一番最初の地図&グラフで思ったのが、日本って意外と、1人あたりの水資源量、少ないんですね!!『日本=水が豊富』と思っていたので、意外でした。『日本=水が豊か』って何をさして言っているのでしょうか?
②>中東の国々は地下水への依存度が高く、食料生産上既に水資源は危機的な状況にあり、輸入が欠かせない状態です。
“食糧生産上に必要な水を輸入する”ってどういう状況でしょうか?
国際河川を通じて、近隣国から持ってくるっていうこと??(しかし中東の場合、周りもたくさん水がありそうな感じもしないし・・・)
ミネラルウォーターのように、飲料水を輸入し、飲み水にするのはらイメージがつくのですが、農業に使うような水ってどうやって輸入しているのでしょうか?
かっしーさん、コメントありがとうございます。
①日本が水が豊かに感じられるのは、人口密度は高いものの、降水量が多く緑が豊かで、現在の所、季節変動による渇水や一部淡水入手が難しい地域はあれ、全体としては定常的に水に困ることなく過ごせたからだと思います。
ただ、降水量は多いものの、海までの距離が短く起伏に富んだ地形なので、降った雨はあっという間に海に流れ出てしまうので、都市の給水などはダムなどによる貯水で使用量や変動の調整を賄っています。
②は書き方が悪くて申し訳ありません。生産のための水の輸入ではなく、食料の輸入のことです。
国別の「一人当たり水資源量」の順位で、意外と日本が下位ですね。
『水の豊かな国・日本』のイメージと上手く合致しない。
順位の高い国をみた方が分かりやすいですね。
カナダ、ロシア、ノルウェー、フィンランド。
冬季に大雪が降るエリアが広く、国土全体の総降水量が巨大。その割には、人口密度が少ない。その結果、一人当たり水資源量が巨大になる。
スイスもこのタイプでしょう。
ブラジルは、アマゾン流域に巨大な降雨がある。国土全体でみると、巨大な降水量の割りに、人口密度が小さい。
ニュージーランドは、降雨、降雪量が多い。その割りに、人口が少ない。
日本の場合は、河川の下流域に人口が張り付いている。だから、降水量(降雨、降雪)に対して、その利用(可能)比率は大きい。
それと、稲作(瑞穂)の国とが合体して、「水の豊かな国・日本」というイメージが固定される。
それに対して、ノルウェーやブラジルでは、降水量が巨大だが、そこには余り人が住んでいない。人の主居住エリアと降水量の関係を比較できると良いですね。(そんなデータは無いかも知れませんが。)
leonrosaさん、コメントありがとうございます!
おっしゃるように、居住エリアや農地、工業用地と取水のし易さ、し難さも現状水をどの程度利用できているかに関ってますね。
稲作による流出水の緩やかな利用はイメージもなるほどです。
どうも水資源の量的な把握の自体分かり難いもんだなと感じます。カルビ☆さんも書いてくださってますが、水資源賦存量(降水量から蒸発散量を除いたもの)では実際あとどのくらい使っていいのか良く分からないので、その多寡を横並びに比べても、状況が今ひとつピンとこなくて困っています。
難しいからよくわからないままなのですが、ふわんと感じるのは、CO2排出にしても何にしても、個人レベル、企業レベル、国家レベルと大小の差はあれ、もう自分のことだけを考えていい時代は過ぎ去ったということを感じました。大きなことは出来なくても、まず隣の人のことを考えることから始まって、それがちまちま積み重なって、ある地点で爆発的に広がり、地球レベルで思いやりの和が広がるのでは?なんて思うのは甘いのでしょうかね。でも、そうなったら嬉しいなぁ。何百年かかるかわからないけれど…。
ぱやぱやさん、コメントありがとうございます!
おっしゃるとおり、自分のことだけ考えていてすむ段階では過ぎたように思います。知らなければ明確に危機と捉えられないけれど、現実には危機的な状況は環境問題に限らず沢山あると思います。
自分中心⇒みんな中心に変わっていく上でも、危機や可能性を共有できるように、多くの人がネットなどを通して協働できればと思います。
今後とも宜しくお願いします。