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2008年07月26日

「くすり」って、なんだろう?・・・モルヒネ編

こんばんは。
  
先日のfinalcutさんのエントリーで、「くすり」についての大きな4つの変遷について紹介が有りました。
   
今日はその内の、1.モルヒネの発見について、迫りたいと思います。
 
まず、みなさんが、モルヒネって聞いて、どのようにイメージされますか?
 
くすりとしてよりも、麻薬として、ちょっと危険な香りを感じる方も多いかもしれません。
 
確かに、モルヒネ自体には、痛みを感じさせない鎮痛作用の他、多幸感等の快感を感じさせる、いわゆる麻薬としての側面も持っています。
 
が、現代において、くすりとしてのモルヒネは、その強力な鎮痛作用から主に進行がん患者の痛みに対する、除痛を目的として使用されています。
 
このようなモルヒネですが、体内で作用する仕組み自体は、体内で生成されるエンドルフィンなどの鎮痛快感物質を受け取る受容体(レセプター)に、モルヒネがはまり込むことにより、鎮痛快感作用を引き起こすという仕組みのようです。
体内で生成される鎮痛快感物質が作用している現象としては、ランナーズハイがその一例です。
より詳細な仕組みについては、ここでの主テーマではないので、これ以上の深入りしませんが、興味のある方は、どなたか調べてエントリーいただければと思います。
 
では、モルヒネですが、一体、何時頃から、どのようにして、作られ、利用されてきたのでしょうか?
  
ヒントは、下のポスター。
  
 
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                <ケシの実マン>
 
 
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上記の”ケシの実マン”のポスターは、 「阿片、ヘロインの危険を訴えるポスター」でした。
 
ご存知の方も多いとは思いますが、実は、モルヒネは歴史上のアヘン戦争でも有名な、アヘンから精製されています。
(ちなみに麻薬のヘロインは、モルヒネからさらに精製化学的処理をされ作られています)
 

 
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                      <アヘン戦争>
 
 
アヘン自体は、植物のケシの汁から採集し濃縮されたものですが、ケシが栽培された歴史は古く、5000年以上前のメソポタミアのシュメール人の間で使用されてた記録が残っているほど。まさに、文明とともに、使用されてきた薬物といってもいいでしょう。
 
当時は、「歓喜、至福をもたらす植物」と呼ばれていたことより、その麻薬作用が知れらていたようですが、その後、古代エジプトでは頭痛薬として、ギリシアでは、麻酔、鎮痛作用より病気の治療薬として用いられたり、マケドニアのアレキサンダー大王などは、遠征した兵士の疲れを癒す目的で、使用されたりしていたようです。また中世のアラビアのサラセン帝国では、止瀉作用より下痢止めとして使用されていました。ヨーロッパにおいても、ルネサンス以降、鎮痛薬や精神障害に対するクスリとして、流行し広まっていたようです。
 
 
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                <ケシの花>
 
 
こうして、植物由来の薬物(生薬)として使用され続けてきたアヘンででしたが、アヘンの主薬効成分を純粋な結晶として単離させ、モルヒネとして取り出しされたのが、1806年、Serturner(1783~1841, ドイツの薬剤師)によってでした。以降、およそ150年の歳月をかけ、モルヒネの絶対構造の決定が解明されています。


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                 <モルヒネの年表>


まず最初に有効成分の解明が試みられたのがアヘンであり、またモルヒネの構造決定に参画した化学者達も、当時、第一線で活躍していた学者であり、かつ構造解明に至る試行錯誤過程が、そのまま有機化学の発展を反映していた言えるようです。
 
このように、モルヒネの構造決定の解明にいたる歴史は、そのまま、近代有機化学の発展の歴史と重なってきます。余談ではありますが、モルヒネは、その強力な鎮痛作用より、「くすりの王様」とよばれています。有機化学、薬学に対する歴史的な発展において重要な位置をしめていることが、その元となるケシの実が、某薬科大学の校章図案にも採用されていたりしていることからもよく分ります。
 
 
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       <校章>
  

本学の校章は、Pharmazie の頭文字 P のギリシャ文字φをとり、それにケシの果実を配し、図案化したものである。本学はこの校章のもとに、人類の健康に寄与する "クスリ" と いうものを深く究明し、すぐれた薬学士、薬学者および薬剤師の養成に努めている。

  
  
それにしても、なぜ、近代ヨーロッパの人達は、アヘンを精製して、その有用成分であるモルヒネをとり出し、構造決定の解明までする必要性があったのでしょうか?
 
それまでの薬は、自然物からの抽出からでした。当時、最もよくその効果が知られ、使用されていたアヘンに目をつけ、その有効作用だけを得たいということがその動機なのでしょう。アヘンの有用成分だけを取り出すことができれば、より効果的に、その威力を発揮させることができる(コントロールできる)と考えたのではないでしょうか。そのアプローチの元となる考え方は、近代ヨーロッパの中心となる思考方法の一つであった、要素還元的な思考方法といえるでしょう。
 
その思考方法の良し悪しについては、ここでは取上げませんが、モルヒネの精製だけでなく、この思考方法が、その後の近代ヨーロッパの科学技術の発展に大きく寄与したといえるでしょう。(一方で、その弊害・限界もあるとは思いますが...)
 
まとめると、モルヒネ登場以前の薬は、自然由来(植物)から抽出されたものだけを薬として使用されていたのに対して、それを精製し、その有効成分だけを取り出し、薬として初めて使用を試みたのが、モルヒネであったということです。そういう意味で、モルヒネの誕生は、薬の歴史のなかで、一つの重要なエポックメーキングであったといえるでしょう。
 
 
  
【参考HP】
 
ケシとアヘン(阿片)のお話
http://www2.odn.ne.jp/~had26900/about_souyaku/about_ahen.htm 
 
痛みと鎮痛の基礎知識
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-opioid.html
 
モルヒネ(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%AB%E3%83%92%E3%83%8D 
  
  
 
 

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comments

モルヒネは30年余前のことですが、年1~2回胃痙攣をおこして、激痛に苦しんだとき、モルヒネを打って貰うと激痛が嘘のように消え、雲の上を歩くようにふわっとした気分になりました。
その時の有難さ嬉しさは胃痙攣から開放された今も、しっかり覚えています。
反面劇的な効果のある薬なので、あの苦しみを知る人には、離せない薬になり、常習性の怖さもでてくるでしょう。
「薬になるか、毒になるか」は使用目的が何かが大きいですね。

  • 花筏 2008年07月27日 17:19

薬は、裏返せば毒にもなる2面性を持っています。
今後、社会(市場)の中で、どう薬が使われてきたか利用されてきたかという視点も、より紹介してもらえたら、とてもありがたいです。
次回も期待してます!。

  • 元元 2008年07月29日 11:31

>ケシが栽培された歴史は古く、5000年以上前のメソポタミアのシュメール人の間で使用されてた記録が残っているほど。まさに、文明とともに、使用されてきた薬物といってもいいでしょう。

逆に言えば、文明(私権時代)以前は人類はケシは使っていなかったということなのでしょうか?ちょっと気になります。

  • ケシケシ 2008年07月29日 15:37

モルヒネが、はじめて人工的に純化精製された薬とは知りませんでした!以外に歴史が浅くてビックリ!です。

とても鎮痛効果があるようですが、本当に初めから医療目的で研究されたのでしょうか?効果に二面性のあるものは、良い効果の方にピントを合わせて正当性を謳うものが多いですが・・・。麻薬物質の影に荒廃・戦争あり・・・。その影に・・・??のあたりが、気になります!

今の薬学界とのつながりや先端薬学研究の現状なんかも興味深いですね。
これからも楽しみにしてます!

  • ponyo 2008年07月29日 16:08

楽しく読ませていただきました。モルヒネの登場が薬のエポックメーキングとは驚きです。
 要素還元的な思考方法は、「バランス」を欠く思考方法であり、現代社会の中で行き詰まりを見せていますよね。

  • たいまくん 2008年07月29日 16:58

自然の生薬からその有効成分を分析、抽出し、化学式(分子構造)を明らかにする。明らかにする事ができれば、それを人工合成する方法が見出される。
これが、近代薬学のスタンスですね。

ですから、今でも、薬草ハンター(有用な薬草を世界中で探す)という職種が、製薬会社にいる。

昔、新疆ウイグル地域(中国)に合同調査に入った時、その地域の薬草類は持ち出し厳禁でした。

資源戦争ですね。

  • leonrosa 2008年07月29日 19:21

昨今は、麻薬の蔓延がスゴイので、その歴史は大変きになります。。
これからも、「くすり」追求、楽しみにしています。

  • モムモム 2008年07月29日 19:46

花筏さん、コメントありがとうございます。モルヒネを投与されたことがあるなんて、貴重なご体験をされたんですね。

>「薬になるか、毒になるか」は使用目的が何かが大きいですね。

まさに、そうですね。薬に限らず、科学技術には、おっしゃるような両面性を持ち合わせているように感じます。どう使うか、それを使う人間自体の資質のようなものが問われているのではないかと思います。

  • yuyu 2008年08月02日 21:05

元元さん、コメントありがとうございます。

>今後、社会(市場)の中で、どう薬が使われてきたか利用されてきたかという視点も、より紹介してもらえたら、とてもありがたいです。

薬の開発や使用は、世の中の動きとも、切れない関係にあると思います。特に、日本やアメリカなどは、薬の消費量が、物凄く多いという話も聞いた記憶があります。ここら辺の話は、このシリーズでも、折に触れて出てくるのではない思いますので、ご期待ください!!

  • yuyu 2008年08月02日 21:12

ケシケシさん、コメントありがとうございます。

>逆に言えば、文明(私権時代)以前は人類はケシは使っていなかったということなのでしょうか?ちょっと気になります。

文献には残っていないので、確かなことはいえませんが、想像するに、文明以前のケシの使い方は、シャーマンなどが使用する場合が大方なのではないでしょうか。(所謂、精霊・神との交信的な使い方)

本来、人類は、自然との背後に精霊を見るといった、自然との交信ともいえるような能力を誰もが持っていたと思います。時代が下るにつれ、その能力を持った人が、シャーマンのような特殊な人に限定され、更には、シャーマンでさえ薬を使用しないと交信できないような状態にまで、能力が落ちてきたためではないかと、勝手に考えたりしています。

それは、時代とともに、自然外圧が低下し、また私権的な観念の拡がった影響の結果ではないかと推論しています。

  • yuyu 2008年08月02日 21:26

ponyoさん、コメントありがとうございます。

>とても鎮痛効果があるようですが、本当に初めから医療目的で研究されたのでしょうか?効果に二面性のあるものは、良い効果の方にピントを合わせて正当性を謳うものが多いですが・・・。麻薬物質の影に荒廃・戦争あり・・・。その影に・・・??のあたりが、気になります!

確かに、アヘンやモルヒネのように、麻薬物質としても使われるものには、その影の側面もあるように思います。ブラックマーケットでの流通や、テロ組織や闇社会での資金源になっていたりと...
自然の摂理ブログからは外れますが、確かに奥深く興味が尽きない話題ですね。

  • yuyu 2008年08月02日 21:41

たいまくんさん、コメントありがとうございます。

>要素還元的な思考方法は、「バランス」を欠く思考方法であり、現代社会の中で行き詰まりを見せていますよね。

木を見て森を見ずというか、全体を俯瞰する、全体の関連性についての視点が、欠けてしまいがちな思考方法のようにも思います。

はたして、西洋発の薬は、この思想性の上に成り立っているのか。そうじゃない発想の薬はあるのか?次回以降のエントリーも、ご期待ください。

  • yuyu 2008年08月02日 22:01

leonrosaさん、コメントありがとうございます。

>ですから、今でも、薬草ハンター(有用な薬草を世界中で探す)という職種が、製薬会社にいる。

まるで、金脈を探すように、世界中を飛び回っている人たちがいるということは、耳にした事がありました。薬草ハンターというんですね。それにしても、なんだか、すごく私権的なにおいがしますね。

そもそも、発見したものは、たまたま、その地域に生息したものを発見しただけでしょうから、発見した企業が、その薬草等を独占することなく、有用なら、人類全体の財産として、共有してほしいものです。

  • yuyu 2008年08月02日 22:10

モムモムさん、コメントありがとうございます。

>昨今は、麻薬の蔓延がスゴイので、その歴史は大変きになります。。

そのですね、芸能人のスキャンダルでも、麻薬がらみは多いですよね。

麻薬と一口にいっても、その作用から、アップ系、ダウン系、幻覚系などに分類できるようです。さらには、天然由来のものから、化学的に合成されたものまで色々あるようです。大麻のように、国によっては、摂取可能なものもあったりと、地域的な特色もありそうですね。そもそも、麻薬に頼らなければ成り立たないというところにも、問題があるようにも感じます。

  • yuyu 2008年08月02日 22:21
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