2010年07月15日
『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電12 地球の物質循環から切り離された核廃棄物問題はトリウム発電でも同じ

トリウム原子力発電の可能性を探るため、前回までの記事で、ウラン235を用いた原子力発電のバックエンド問題を扱ってきました。そこで浮上してきたのは
『核反応を起こせば、どう加工しようとも核廃棄物は半永久的になくならない』
という事実です。そして、廃棄物問題において、トリウムを用いた原発の利点として主張されてきたことは、
①ウランと異なりプルトニウムが発生しない。
②燃料として濃縮しないので放射性廃棄物が圧倒的に少ない。
ということでした。これらが果たしてそうなのか、具体的に検討していきましょう。
☆☆☆プルトニウムがでないから安全であるというトリウム推進論者の主張は詭弁ではないだろうか
☆トリウム発電ではプルトニウムはでないが他の核分裂生成物は発生する
これまでウラン235を用いた原発では、核兵器への転用が容易であることや体内で内部被曝をしガンになる恐れがあるため、プルトニウムが発生すること自体が最大の問題であると取り上げられてきました。しかし、それ以外にも核分裂生成物は発生し、似たような毒性を持っています。トリウム発電では確かにプルトニウムは発生しませんが、ウラン原発と同じように他の核分裂生成物が発生するのです。
☆問題は放射性廃棄物がどのぐらい発生するのかということ
他の核分裂生成物が発生するにもかかわらず、プルトニウムがでないからといって危険性がないというのは詭弁です。つまり、プルトニウムのという言葉は原発の危険性を主張するための象徴言語に過ぎなかったといえます。ちなみに故高木仁三郎氏の「プルトニウムの恐怖」ではプルトニウム以外の広範な危険性を論じています。つまり、問題は放射性廃棄物がどのぐらい発生するのかということです。
☆☆☆ウランとトリウムではどんな放射性廃棄物がどのくらいでるのか
それでは、ウラン235を用いた軽水炉とトリウム熔融塩炉の核廃棄物の発生量を比較していきましょう。
☆ウランはほとんどが未反応物であり、トリウムはほとんどが核分裂生成物となる
下図は、以前、このシリーズのはじめにUPしたウランとトリウムの天然資源から核反応後までの成分構成を比較したものです。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電3 核化学反応におけるウランとトリウムの比較 http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/02/000684.html 参照
図のⅠ欄は核反応する物質が天然に存在する段階。Ⅱ欄はⅠを加工して核燃料とした段階。Ⅲ欄は核反応後の物質の構成比をそれぞれ示しています。
ウランの場合、天然ウランの中で核分裂可能なものは0.7%のウラン235です。それを3%に「濃縮」することで核燃料として使えるようになります。そのため、天然ウランの中の不要なウラン238を取り出し廃棄することとなります。更に炉の中で核反応を起こさない97%のウラン238はその2%分がプルトニウムに変化しますが、残り95%は、未反応のまま廃棄されることとなります。
トリウムの場合は、そのままでは核燃料とならないので、中性子を注入する「核スポレーション」という前処理を行ってウラン233に88%が変換します。このため「濃縮過程」が必要ありません。核反応を起こすのはこのウラン233の88%×89%=78.3%で、これが核分裂生成物に変化します。残り88%×11%=9.7%はウランの同位体である放射崩壊物となります。

ウラン、トリウム共通して下記の特徴があります。
原子力発電所の中で核燃料を反応させた後は、さまざまな放射性廃棄物が生成されます。ここで、質量がエネルギーに変わるのはほんのわずかですから、物質の殆どが放射性廃棄物として残ると考えていいでしょう。その中でも、図中の濃いブルーの部分がエネルギーに変わる核反応を起こします。それは、物質変化を伴う反応で多数の放射性物質になります。このなかには、『毒性が強い』『遮蔽が困難』など、人間にとって危険な元素に変わってしまったものもたくさんあります。
☆核反応する物質だけで比較する必要がある
炉や核物質の違いで核反応しない不純物を含めた核燃料での比較では、核分裂生成物などの正確な比較ができません。実際、ウラン燃料ではその95%も反応しない不純物があり、トリウム燃料では12%が反応しない不純物となります。したがって、炉のなかで核反応を起こす物質のみの比較をすることが必要です。上図の濃いブルーで示した比較対照部分となります。
☆核反応を起こす物質のみでウランとトリウムを比較するとトリウムは核分裂生成物はウランの1.3倍となる
下図も以前UPしたものに手を加え、上記の理由からウランとトリウムで核反応をしない分を除いた対照部分を同じ質量とした場合で生成量の比較をしました。ウランはウラン238の95%を除いた残り5%を100kgとし、トリウムはトリウム232の12%を除いた88%を100kgとした比較です。プルトニウム以外の核分裂生成物に焦点をあてると、ウラン:トリウムの核分裂生成物の生成比は68:88.95≒1:1.3となります。「燃料が同質量ならばウランよりもトリウムのほうがの高レベル放射性廃棄物が多い。」ということです。そして、これが高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体となり地中へ埋設されることとなります。

表について補足しますと、前提として、ウランは固体燃料の軽水炉の運転実績から計算し、トリウムは古川和男氏によるトリウム熔融塩炉の推定値を元に計算しています。
『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電3 核化学反応におけるウランとトリウムの比較 http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/02/000684.html 参照
元素種別と放射線について、核反応をした物質を2種類に分けています。放射崩壊物とは、核分裂はしていないものの原子炉内で発生した中性子を吸収して別の元素に変化した不安定な物質です。安定した元素になるまで放射能を発生させ続けます。次に、核分裂生成物とは、核反応によってウランやトリウムなどの元素が分裂してできた物質です。同じように放射能を発生させて安定した物質となります。
☆☆☆トリウム発電も核反応を起こせば放射性廃棄物が発生し、半永久的になくならない。
これまでのことから、炉の違いや核物質が違っていても核反応を起こせば放射性廃棄物が必然として発生し、半永久的になくならないという事実がわかりました。前回の記事を改めて引用します。
放射性廃棄物は、無害化するまでの途方もない期間、人間の暮らす空間から隔離しておかなければなりません。放射性廃棄物が増えて蓄積されるということは、、「隔離された閉塞空間」が地球上に増え続けることに他なりません。それは同時に、その様な閉塞空間で核のゴミを管理する人間を増やすことを意味します。その様な息苦しい管理社会で、社会の活力が生み出されることはありません。つまり、効率だけを考えて原子力発電を続ければ、確かに目先のエネルギーを得ることはできますが、それと引き換えに、、急速に閉塞空間が増えていき、社会活力の衰弱が進行していくのです。
次代を担うエネルギー・資源 トリウム原子力発電11 ~地球の物質循環から切り離された廃棄物の増量→蓄積の危機~ http://blog.sizen-kankyo.net/blog/2010/07/000750.html
結局 トリウム溶融塩炉も核廃棄物問題はウランと同じことであるといえます。
- by y.suzuki
- at 23:58

comments
これまで、密かに原発シリーズ楽しみにしていたのですが、結局のところ「トリウム発電」自体はどうなの?というところが、ずっと気になっていました☆
>分裂生成物に焦点をあてると、ウラン:トリウムの核分裂生成物の生成比は68:88.95≒1:1.3となります。「燃料が同質量ならばウランよりもトリウムのほうがの高レベル放射性廃棄物が多い。」ということです。そして、これが高レベル放射性廃棄物としてガラス固化体となり地中へ埋設されることとなります。
なんとなく、トリウムの方も処理問題自体は解決できていないのでは?と思っていました。
気になるところは、結局本文中の「ウラン」と「トリウム」ではどっちがどれだけ核廃棄物が出るの?というところだったので、しっかりと数字を押さえて根拠を示してくれたのが非常に納得しました。
表を見ると、ウランでいうところの『プルトニウム発生量分』が、そのままトリウムでは『別の核分裂生成物になっている』だけなんですね!
ということは結局『核反応した分だけ、核廃棄物は出るし、そのほとんど(全部と言っても過言ではない!?)が放射性を持っている。』ということになるので、本文中で言うところの、
>「隔離された閉塞空間」が地球上に増え続けることに他なりません。
という本質問題は解決されないのは明らかです。
この間のもやもやが一気にスッキリしました!
貴重な分析と記事ありがとうございました!
rinoさん、ありがとうございます。
核心をつかんだコメント、そしてもやもやがすっきりされて、こちらもうれしい限りです。
このつづきも期待してください。
トリウム原子力発電でも結局反応しているのはウランなんですね。
「プルトニウムが出ないから安全」って私もだまされていました。バックエンド問題は同じだとすれば、やはり危険にはかわりありません。
こうした事実があまり出回っていないことも、この業界の危険さを改めて感じるところです。
次回も楽しみにしております!
コメントリウムさん、ありがとうございます。
>こうした事実があまり出回っていないことも、この業界の危険さを改めて感じるところです。>
プロパガンダ用のさわり程度の概要や逆に専門家向けの難解な学術資料ばかりで、みなさんにすっきりしてもらうためには、オリジナルでデータを編集せざるを得なかったのが実態でした。
なぜそういう情報が開示されていかないのかも含めて、今後の展開に期待してください。
恥ずかしながら、トリウム原子力発電については殆ど何も知らなかったので、非常に勉強になりました。
>『次代を担う、エネルギー・資源』
と言うタイトルが
トリウム原子力発電 等を肯定しているようなニュアンスがあって、読む前は印象が良くなかったのですが、読んで誤解が解けました。
>炉の違いや核物質が違っていても核反応を起こせば放射性廃棄物が必然として発生し、半永久的になくならないという事実がわかりました。
と言う結論に納得致しました。ウランでの原子力発電の代替としてプルトニウムを発生しないトリウムでの原子力発電を持ってくるって、原子力推進派の詐欺的手法ですね。
何を用いても、たかが(数十年間の)発電の為に半永久的に管理しなければならない放射性廃棄物を出す『核発電』は愚行以外の何ものでもありません。早急に止めなければならない事を再確認致しました。
雑草Zさま、コメントありがとうございます。この間身内の不幸やら、病気やらでご返事遅れました。
私も、当初は過渡的にトリウムを採用することもありかもしれないという期待がありましたが、調べていくとやはり、原子力としての問題は同じであると判ったのです。
原子力導入の黎明期に固体燃料としてトリウムも検討されたようですが、その資源がほとんど発見できなかったことと、国際的な政治状況の中で、GE社の軽水炉に絞られたようです。(国産原子炉はほとんど普及されませんでした。)このトリウム熔融塩炉は体制側にとっても、亜流であるようです。
コメントを入力してください
今日は
<同じ天然資源質量から取り出せるエネルギーは、天然ウランより天然トリウムのほうが、約150倍の大きいということになります>
同じエネルギーに得るのにウランに比べ、トリウムは約150分の1で良いと言う事では?
ウランを収める被覆管は放射性廃棄物にそれに20%のプルトニウムを生みます故に日本は潜在的な核保有国と
単純な質問ですみません。
軽水炉で反応するウラン233が全体の3%に対し、トリウム炉でのトリウム232→ウラン233が88%。
ということは、単純に燃料総量が約1/30で済むという事でなないのでしょうか。
だとすると、核生成物の量もその割合で比較しないといけないと思うのですが。
富嶽号は幻かさん。コメント、ご質問ありがとうございます。
ご質問のような比率で比較することもありえましたが、ここでは、核反応する物質を等量で比較しました。これはウラン235、ウラン233の1原子どうしがほぼ同じエネルギーを発することを前提に、廃棄物がどの程度の差になるのかを分析したかったのです。結局、供給される発電量同等での核反応する物質の比較が現実的であるといたしました。
また、ご意見お待ちしています。